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(保管庫) 草食伝・・日本狼の復活かも・・違うかも・・・

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《第4話》 【美術教師戦】

《第4話》 【美術教師戦】

 当時、先生を見るときはその優秀さではなくて先生の性格や人格を見て優劣を決めていたような気がする。

しかし大人になってから聞いた話だが、国語や数学の先生は先生たちの中でいばっているらしいのだ。
また社会や理科の先生は一段おち,美術や音楽の先生はカスだといっていた国語の先生もいた。

たしかに国語などは読み書き文章読解力などすべての勉強の基礎になるものだが、だからといって生徒側から先生を見た場合、国語と社会と美術の教師の差は教える教科ではなく先生の人間性にかかわっているように見えた。

 ただ美術や音楽の時間を俺が真面目にやっていたかというとそんなことはない。
たぶん主要5教科の勉強に神経を使いすぎたせいでその他の教科は気が抜けるのだ。
というのは俺のいいわけ。

 美術の写生の時間などは羽根を伸ばし放題。

ある日、木のある風景をスケッチするということで校庭に出た。
外に出たらこっちのものだ。
校庭の1番端まで行って ひなたぼっこである。
毎日こんな授業が続けばいいなと空を見上げていた。

すると校舎の方から美術の先生がこっちに向かって歩いてくる。
なんの用があるんだよ、と思う。

先生は俺の前まで来て「おめぇなにやってんだよ。遊んでねぇで早く描けよ」などと おどす。「今、どの木を描こうか探してるんですよ」
「じゃ、早く探せよ」
「早く探してるんですけどいい木が見つからないんです」
「じゃあ、早く見つけろよ」
「だから先生と話してるとなかなか見つからないじゃないですか。あっ、先生あっちに も生徒がいる。あっちにも行かなくちゃ」
「おめぇ、俺にあっち行けって言うのか」
「いえ、あっち行ったほうがよろしいんじゃないかと申し上げてるんですけど」
「おめぇ、ちゃんと描けよ」と先生は吐き捨てるように言って、大勢の生徒が固まっているところへ歩いて行った。
よしよし、しばし休息。

ブラブラと歩いていくとバックネットの後に不思議な木を見つけた。
木の名前はわからないが10mほどの高さで、幹がすーっと伸びているのだが下の方の枝が全部切り落とされている。
残っているのはてっぺんの数本の細い枝と10枚程度の葉っぱだけだ。
なんか殺伐としてるけど、なんかカッコイイ木に見えた。

どうしようかな、これを描こうかなと思っていると、向こうから先生が完全に俺をめがけて歩いて来る。
「おめぇ、早く描けって言ったろ」
「今、描く木が決まったんだよ」
「決まったら早く描けよ」
「だから、これから描くよ」
「描くよじゃねぇよ、早く描けよ」
「うるさいなぁ、先生がいたら邪魔で描けねえじゃねぇかよ」
「おめぇ、邪魔だと。このぉぶっとばすぞ」
「おう、やるならやれよ。なんだよ、中学生相手にムキになって」
「なんだとこのやろー。おめぇ描く描くつってぜんぜん描いてねぇじゃねぇかよ」
「だから、今描く木が決まったの。だからこれから描くの。だから先生がいたら描けないの」
「ふーん、どの木を描くんだ」
「これだよ」

俺は、ちょろちょろと葉っぱがゆれているその木を指差した。
先生はあきれた顔つきで言った。
「おめぇ、この木を描くの。頭おかしいんじゃないの」
「おかしくねぇだろ。この木のよさがわかんないかな。先生には芸術ってもんがわかんないんだなぁ」
「芸術だと。この木がか?」
「そうだよ。下のほうは葉っぱがとられて死んでるけど、てっぺんの葉っぱでかろうじて生きてるって感じが わかんないかなぁ」

先生はかなり落ち着いていて、木を見上げて言った。
「死んでると生きてるねぇ・・・」
「今の中学生みたいな感じがするだろ」

先生は俺の顔とその木を交互に見つめ、なにか考えながら言った。
「今の中学生かぁ。それでこれが芸術だということか」

こっちもかなりリラックスしてきて、素直な気持ちで言った。
「うん、俺はそういう感じがしたんだけど」

「感じがした?・・・おまえがこの木を描くのを見ててもいいか?」
俺は「いいですよ」と、ていねいな言葉づかい。

 先生は俺の後ろに立ち、俺は地面に座って、その木を描き始めた。
あっそうだと思った。先生は俺が描くのを見たいって言ってたんだ。

「先生、見える?」
と、スケッチブックを上に持ち上げて見せた
「絵を見たいんじゃない。おまえを見ていたいんだ」
「ふーん、別にいいですけど・・・」

と答えて、なんで?と思った。
なんで俺を見ていたいの。
・・・まっいいかとまた描き始めた。

さっき、かなり どなったせいか すっきりしていて、絵に集中できた。
しばらくして絵は描きあがった。
「できた!」と ちいさく叫んだ。
「おっ、できたか。見せてくれ」
と、先生は後ろから近づいてきた。

びっくりした。先生が後ろにいるのを、すっかり忘れていた。
「見せてくれって、俺の絵を?」
「そうだ」

先生はスケッチブックを取り上げ、実物の木と俺の絵を見比べている。
なんだよ、点数でもつけんのかよ。

「おまえの絵のほうが 実物よりいいな」
「そんなことはないんじゃない」

先生は、しみじみと俺の絵を見ていた。
「この絵を俺にくれないか」
「えぇ?先生、ほしいの?先生がほしがるってことは、価値があるってことだから、あげない」

すると先生は下を向いて、しみじみ言った。
「そうだよなぁ、価値があると思えば自分で持ってるよなぁ」

なに、そうきたか。てことは、こういくか。
「価値があるんなら 俺が持ってても無駄だから、先生にあげるよ」
「ほんとうか。悪いな」
と言って、俺のスケッチブックの1枚を受け取った。

 後日、休み時間にベランダから外を見ていると、あの木の下に生徒が集まっている。
みんなスケッチブックを持っているようだ。
あの美術の先生もいる。
なにか生徒たちに話をしているようだ。
いったいなにをやっていたんだと思い、先生が戻ってくるのを待った。

生徒たちが先に戻ってきた。
2年生らしい。
生徒の一人が俺を見つけて
「おい、あれが山崎さんだぞ」と言っている。
「おい、山崎先輩って言わなくてだいじょうぶか」などと話している。
「だいじょうぶだよ、聞こえてないから」
「でも、面と向かって言うときには、山崎先輩って言わないとな」
全部聞こえてるよ。

 そのうちの一人が
「俺、山崎先輩と話してくる」と言い出した。
「ほんとかよ、おまえ度胸あるな」などと言っている。
なんで俺と話すのに度胸が必要なの。俺って荒れたり暴れたりするわけじゃないし。

その生徒が俺の前に立った。
「あのー、山崎先輩なにやってるんですか」
答えるの、めんどくせーな。
「先生を待ってる」
その生徒は口を半開きにして
「はー、先生を待ってるんですか。なんで待ってるんですか」
しつけーな。
「先生に話があるからだ」
「あっ、話があるんですか」
と その生徒は、そのまま後ずさりしていった。

そして仲間のところへ行き、騒ぎ立てている。
「山崎先輩が先生に話があるって言ったぞ」
「やばい、逃げろ」
「なんで俺たちが逃げなきゃならないんだよ。だいじょうぶだよ。見ていようよ」
などと ざわめいている。
なんで俺が怖いの。こんなにかわいい人なのに。

 ぞろぞろ引き上げてくる生徒たちの後から、先生がやってきた。
「おう、山崎じゃねぇか」と陽気に手をあげている。

十分近づいてきてから、俺は言った。
「先生、あそこで なにやってたの?」
先生は明るく答えた。
「うん、美術の時間ではなかったんだけど、教育のためにうちの生徒にあの木を描かせていたんだ」

先生は2年生のクラスを担任しているらしく、ホームルームの時間に描かせたらしい。
「教育のため?・・・まずいんじゃないの。俺はあの木は死んでるって言ったろ」
先生はケロッとしている。
「まずくねぇだろうよ。みんなは あの葉っぱのような人になって、人を生かす人になりなさいって言ったんだもん」

俺はあの木を一人の中学生と見たが、先生は中学生全体とみたか。
「ああ、まずくないね。じゃ、俺は帰るよ」
「なんだおまえ帰っちまうのか」
「教室に帰るんだよ」
「ああ、そうか」

 教育なんて言葉を使うとむずかしくなっちゃうけど、なにかは言おうよ。お互いにね。

 


 


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